4-1. 太陽の中の核融合
太陽の核融合反応は太陽の中心付近で起き、反応で発生した熱が太陽中心から表面まで伝わるのに約10万年かかると考えられています。従って、我々が今見ている太陽の輝きは、約10万年前に太陽中心で起きた反応の結果という事になります。一方、太陽からのニュートリノは、太陽の中心近くで作られ約500秒で地球に到達します。
つまり、太陽中心で今起きている核融合反応を、太陽ニュートリノで直接観測する事ができるのです。
実際に太陽ニュートリノを観測した結果、いくつかのことが分かりました。まず、1969年に始まったホームステークの観測で、太陽ニュートリノの数が予想値の半分以下しかないことが世界で初めて指摘されましたが、この観測ではニュートリノの方向と時間とが分からない為疑問のまま残されました。次にカミオカンデの観測で、確かに太陽方向からニュートリノが来ており、太陽は核融合反応で燃えているのだという事が確認されました。またカミオカンデでもニュートリノの数は予想値の半分しかありませんでした。これに続くエネルギーの異なる複数の太陽ニュートリノ観測で、太陽から来るニュートリノ
の数が予想値より少ないことが確定しました。原因として考えられるのは
の2つです。しかし、観測された太陽ニュートリノの量およびエネルギー分布を、太陽モデルの変更だけで説明することは困難です。
4-2. 超新星爆発のメカニズム
太陽の10倍以上の質量の星は、一生の最後に超新星爆発を起こします。
その時放出されるエネルギーのほとんどは、ニュートリノが持ち出します。従って、超新星からのニュートリノの数、エネルギー、時間分布を測定すると、超新星爆発の約10秒間に何がおきているかがわかります。
1987年に大マゼラン星雲(距離:約16万光年)で起きた超新星爆発SN1987Aのときには、カミオカンデが11個、IMBが8個の超新星ニュートリノを観測し、多くの情報を得る事ができました。大マゼラン星雲よりずっと近い我々の銀河中心付近で超新星が起これば、カミオカンデの約10倍のスーパーカミオカンデで非常に統計精度の高い超新星爆発の情報を得ることできると期待されています。
4-3. ニュートリノの質量
ニュートリノはもっとも基本的な粒子の一つでありながら、その性質はほとんどわかっていませんでした。「ニュートリノは質量を持っているのか」、「
持っているとしたらその質量はどのくらいなのか」。ニュートリノ振動を調べる事によりこれらの質問に答える事ができるかもしれません。
スーパーカミオカンデの観測で、上向きと下向きの大気ニュートリノの数をくらべると、上向きは下向きの半分しか無い事がわかりました。このことは、ニュートリノは質量をもちニュートリノ振動が起きていると、強く示唆しています。つまり、上からのニュートリノは飛ぶ距離が短くて他のニュートリノに変わっている時間がなかったが、はるばる地球の反対側からやって来たニュートリノは、飛んでいる間に約 1/2の確率で
ミューニュートリノがタウニュートリノに変わり、検出できなくなった、
と考えれば説明できます。もちろん、ニュートリノ振動の詳細を知るためには更に厳密な研究が必要で、これは現在も引き続き行われています。
一方、太陽ニュートリノ観測の結果もまた、電子ニュートリノの振動を仮定するとうまく説明できます。
なぜニュートリノの質量が大切なのでしょうか? 実は、ニュートリノ振動の詳細を研究する事が、現在の素粒子物理学をさらに発展させる鍵なのです。例えば、タウニュートリノの質量はタウ粒子の1/300億くらいであることが分かっていますが、この小さい質量は、現在の標準モデルで記述できるエネルギーより
100〜1000 億倍も高いエネルギイースケールの物理に直接関係していると考えられているのです。このように高いエネルギーは素粒子間に働く力がまだ分かれていない宇宙初期の状態、即ち素粒子の大統一理論の世界と関連していると考えられます。ニュートリノ振動の研究は、素粒子物理学の標準モデルを越えた物理学への第一歩なのです。
4-4.
宇宙をただよう新しい粒子の発見
宇宙のごく初期、まだ超高温現象が続いていたときに放出された弱い相互作用をする重粒子(重いニュートリノのようなもの)が、地球や太陽に捕捉されている可能性が指摘されています。その場合、核融合で出来るニュートリノよりずっと高いエネルギーのニュートリノが、地球の中心方向や太陽方向からやって来ると考えられます。
その他、もっと高い超高エネルギーのニュートリノが宇宙からやって来るシナリオもいくつかあり、将来、超大型のニュートリノ検出器が出来、ニュートリノのエネルギースペクトル、方向分布、時間変動、などがより高いエネルギーまで測定されるようになれば、面白い発見が相次ぐかもしれません。