3-1. ニュートリノ観測の一般原理

ニュートリノは物質とほとんど反応しないので、観測は簡単ではありません。大量の物質を用意して、その物質とニュートリノがまれに起こす反応を捕まえる事により、ニュートリノの観測を行います。このためニュートリノの検出器はかなり大きいものが多く、また、多くのバックグランドからまれな反応を取り出すための工夫がなされています。地下に設置されることが多いのも、地上よりバックグラウンドを減らせるためです。

ニュートリノが起こす反応を捕える方法には大別して2つあります。
(1) ニュートリノ反応によって生まれた荷電粒子を検出する方法。この方法は一つ一つの反応の時刻が分かること、荷電粒子のエネルギーからニュートリノのエネルギーの見当がつけられること、ニュートリノの方向も推測できる場合が多いこと、などの長所があります。
(2) ニュートリノ反応により変換が起こった原子核を、その崩壊の様子などを測ることによって検出する方法。この場合、個々のニュートリノのエネルギーや方向などは不明であり、また詳しい時刻の情報も失われる場合が多いのですが、1)では検出が難しい低いエネルギーのニュートリノを検出できる利点があります。

3-2. 実際の観測装置

世界のニュートリノ実験の代表的検出器は以下の通りです。(詳しくはリンク先をご参照ください。)

太陽ニュートリノ実験

-- Homestake(Chlorine), Homestake(Iodine) --
615ton のテトラクロロエチレン(洗剤のようなもの)を用い、太陽からくる低エネルギーのニュートリノとの反応:
   νe + 37Cl → e- + 37Ar
でできる 37Ar の量を測定し、太陽ニュートリノを観測します。1969年から実験を開始し、太陽から来るニュートリノの数が理論値より少ないことを世界で初めて見つけました。ニュートリノの方向や時間が分かりませんが、スーパーカミオカンデよりエネルギーの低いニュートリノを検出することができます。実験は現在も続行中です。

--カミオカンデ--
もともとは核子崩壊の探索を目的として作られた検出器です。大量の水(4500トン)を用い、荷電粒子が水中を走るときに発するチェレンコフ光という微弱な青白い光を、光電子増倍管という光センサーで捕らえ、反応を見つけます。太陽ニュートリノの検出には
   νe + e- → νe + e-
の反応を利用します。
検出出来るニュートリノのエネルギーも幅広く( 5MeV〜数100GeV)、ニュートリノの方向も検出時間も判定できます。世界で初めて、実際にニュートリノが太陽から飛来していることを示しました。また、太陽ニュートリノが理論より少ないことを、 Homostake の実験に引き続き確認しました。

現在はその役目を終えています。

--スーパーカミオカンデ--
カミオカンデの次世代機として作られた水チェレンコフ型の検出器で、 50,000 トンの水を用います。検出原理はカミオカンデと全く同じです。4年間に亘る精密観測で、太陽ニュートリノがかかわるニュートリノ振動の4つの可能性のうち、2つを排除することが出来、太陽ニュートリノ問題の解決に一歩近づきました。

-- SAGE, GALLEX --
55(30)ton のガリウムを用い、
   νe + 71Ga → e- + 71Ge
の反応で作られる71Geの量を測定し、太陽ニュートリノを観測します。 Homestake やスーパーカミオカンデより更にエネルギーの低い太陽ニュートリノを検出する事ができます。低エネルギーのデ−タを示すことによって、太陽ニュートリノ問題の再確認に貢献しました。また、太陽核融合の連鎖反応の基本過程
    p + p → d + e+ +νe
のニュートリノの観測に成功したことは、特記に値します。

-- SNO --
1000tonの重水を用い、
   νe + e- → νe + e- ( スーパーカミオカンデと同じ原理 )
   νe + d → p + p + e- ( charged current 反応 )
   νx + d → p + n + νx ( neutral current 反応 )
の三種類の反応を測定します。 特に neutral current 反応が検出できれば、太陽ニュートリノ問題は ニュートリノ振動が原因なのかどうか直接決定できます。というのは、電子ニュートリノが振動によって他のフレーバーのニュートリノに移行するとき、 neutral current 反応数はニュートリノの種類によらないので数が変わらず、その他の反応数は電子ニュートリノの数に比例して減るはずで、これらの結果がそろえば決定的な証拠となるからです。 1999年からデータを取り始めており、最初の報告が待たれています。

-- BOREXINO, KamLAND --
ニュートリノ反応でできた荷電粒子の出す光量は、液体シンチレータの方が水より約 100 倍多くなることを利用し、よりエネルギーの低いニュートリノの検出をめざす実験です。現在建設中です。

-- HERON, HELLAZ --
現在計画中の低エネルギー太陽ニュートリノ実験です。

超新星ニュートリノ実験

--カミオカンデ--
1987 年に世界で初めて超新星 SN1987A からのニュートリノを 11個 見つけ、ニュートリノ天文学という新しい分野を切り開きました。現在はその役目を終え、次世代機のスーパーカミオカンデに研究を引き継いでいます。

-- IMB--
カミオカンデが超新星からのニュートリノを見つけたという情報をもとに、SN1987A からのニュートリノを 8 個見つけました。現在はその役目を終えています。

--スーパーカミオカンデ--
カミオカンデの次世代機として作られたスーパーカミオカンデは、勿論超新星ニュートリノの観測も目指しています。もし、SN1987A よりさらに近い我々の銀河で超新星爆発が起これば、カミオカンデの約 10 倍の能力を持つスーパーカミオカンデは約 4000 個のニュートリノをつかまえることが出来ると期待されています。

大気ニュートリノ実験

--カミオカンデ--
大気ニュートリノにニュートリノ振動が起きているらしい徴候を世界で初めて見つけました。その後、次世代機のスーパーカミオカンデに課題を引き継ぎ、検出器としての役目を終えました。

--スーパーカミオカンデ--
カミオカンデの見つけた命題を引き継ぎ、2年間に亘る観測で、大気ニュートリノの上向きのミューニュートリノが下向きのミューニュートリノの半分しかないというデータを得、ニュートリノ振動の証拠をつかみ、ニュートリノに質量がある事をつきとめました。これによって従来の物理学が大きく変更を迫られることになりました。

-- Frejus, Soudan2 --
もともとは核子崩壊を探索するために作られた検出器です。鉄と飛跡検出器を交互に置き、鉄中でおきたニュートリノ反応によってできた荷電粒子が通り抜ける時におきる電離反応を、飛跡検出器で測定する事により、大気ニュートリノ反応を検出します。主に高いエネルギー(数100MeV-数GeV)のニュートリノの検出を行います。

超高エネルギーニュートリノ実験

-- Amanda, Baikal, NESTOR, ANTARES --
南極の氷や深海の水を用いて、超高エネルギーのニュートリノ反応によって作られる上向きミュー粒子を検出し、超高エネルギー天文観測をめざす実験です。

-- MACRO --
もともとは磁気単極子検出器ですが、エネルギーの高い(数 100GeV)ニュートリノが検出器の周りの岩盤に反応して出来るミュー粒子を検出する事により、超高エネルギーニュートリノの検出も目指しています。 また、超新星からのニュートリノも目標にしています。

-- Telescope Array, HiRes, Auger, OWL/ Airwatch --
もともとは超高エネルギー宇宙線の観測を目標としている実験ですが、もう一つの目標として、超高エネルギーニュートリノ の観測もめざしています。 HiRes は既に稼働していますが、その他の実験はまだ建設中あるいは計画中です。

原子炉ニュートリノ実験

-- Savanna River --
1956年に世界で初めてニュートリノを見つけた、ライネスの歴史的実験です。当時の検出技術の低さをカバーするためには、大量のニュートリノ発生源が必要で、当初は原爆実験を用いる予定でしたが、検出技術が開発されて原子炉を用いることになりました。3層の液体シンチレーションの間に塩化カドミウム水を入れ鉛で囲った検出器を、炉心から11m地点の地下12mに設置し、原子炉の核分裂で生まれた反電子ニュートリノを捕まえました。反応式は以下の通りです。
   {反}νe + p → e+ + n

-- KamLAND, CHOOZ, Palo Verde --
原子炉でつくられる反電子ニュートリノを用いて、ニュートリノ振動を観測する実験です。実験の主な目的は、電子ニュートリノと他のニュートリノ間のニュートリノ振動です。

加速器ニュートリノ実験

-- Brookhaven --
1962年に初めて加速器でニュートリノが作られ、その結果、ニュートリノには2つの種類があることが判明しました。

-- CHORUS, NOMAD, LSND, KARMEN --
加速器でつくった人工のミューニュートリノを用いてニュートリノ振動を検証する実験で、ニュートリノの飛行距離は短距離(数10mから数km)です。

-- K2K, MINOS, OPERA, ICANOE --
加速器でつくった人工のミューニュートリノを用いてニュートリノ振動を検証する実験で、ニュートリノの飛行距離は長距離(数100km)です。 K2Kは1999年に実験を開始しました。その他は現在建設中または計画中です。